昭和、平成時代の河川管理現場で体験したこと

見聞きしたこと、考えたこと、出来なかったことを伝えたい

アメリカ出張で目から鱗、「知る権利」と「競争」の徹底

日本の洪水予測解析ソフト開発には2つの問題点があります。 一つは著作権で、国が発注するソフトについて、著作権を主張する仕組みがああるものの、その根拠法令には国有財産法しかなく(物の管理法)、ソフトなどの著作物を事実上管理する規定がなく、著作…

軟弱地盤上の樋門函渠の設計法に出会った頃

30歳の頃でしょうか、渡川工事事務所の係長に赴任しました。四万十川は今では有名ですが、当時は文字どうりの陸の孤島、建設省四国地方建設局のある高松市から東京と事務所とはどちらが早くたどり着くかといえば、東京が早かった。汽車も途中の土佐佐賀まで…

香川県の土器川がなぜ礫河川なのか? NHKスペシャル列島誕生ジオジャパンで説明された

その河川がどのような性質を持つ川か、どんな成因を経た流域なのかを知ることは河川を管理するためには欠かせない基本的な知識といえるが、昭和の30年代にはまだよくわからなかった。 四国の地質図は、当時高知大学教授の甲藤次郎先生がまとめていて、たびた…

「河川」と「川」との区別

ODAの仕事で、中華人民共和国の日本の河川局に相当する「水利部」と接触したことがあります。 私の姓が「小川」であったので、それをきっかけで中国では河川の大きさをどのように区別するのかを教えてもらいました。 「河」は中国基準で黄河や長江などの主要…

水害が発生すると、川床を掘れという主張はもっともなれど

川底を掘れという意見は一見まともながら、その効果が持続しないこと、他の施設との関係などで容易には実現しにくい方策 洪水を無くすための方策の一つとして、「川底を掘削する」という方法が議論されています。 確かに川底を掘り下げることは、氾濫を防ぐ…

洪水時に堤防はどこまで耐えられるか(江戸川旧堤防を利用した実験から)

土を築き立てて作った堤防が、洪水時にどこまで頑張れるかは、誰もが知りたいと思うところです。 堤防は現地実験で安全性が確認できない構造物なのです。過去の洪水では破堤しなかったという事実だけが確かなことで、飛行機や建物、ダムなどは実負荷実験を行…

水防災対策を今後、どのように進めるかはなかなか難しそうだ

水の利用であれ水防災対策であれ、昔も今も政治、経済が治水の方向性を左右している。治水の技術はこれにかなうように対応してきた歴史があり、今後も変わることはない。 既往最大の洪水が頻発し、一層巨大化が見込まれ、少子高齢化社会が到来しているこの時…

今後の水防災で考えること

2019年の18号台風を契機に、大河川だけではなく、中小河川をどのように管理してゆくかについて考える機運が広まりつつある。 その対応策はそれぞれの地域によってさまざまであろうが、これを考えるための材料について書いてみた。 1、自分が住んでいる土地…

20191019城山ダム緊急放流報道、緊急放流 という言葉が誤解を生む

20191019日の台風19号は、予想以上の被害が発生しました。各地で痛ましい出来度とでしたが、私の知る限り、ああまたここかという、低地の被災が多いことに、改めて無力感を感じました、 ここでどうして、こんなに今、厄災が発生するのかについての私の見方は…

洪水報道 「緊急放流」は、ダムが被害を助長させている印象を与えている

2019年10月の19号台風は、しばらくぶりに首都圏を直撃したこともあって、密度の濃い報道ぶりだ。 相模川の城山ダムが緊急放流を行うことが報道されている。 多くの報道記者は、かっての「ダムは無駄」といった報道キャンペーンの後遺症があるらしく、洪水時…

NHK 「中国”改革改革を支えた日本人”」を見て考えてたこと

NHKBS放送「中国”改革改革を支えた日本人”」を見て考えた。 私は建設省に在職中、江沢民時代に、省内でも中国へのODAがいくつか実施されていました。私がかかわったのは「水防防止指揮プロジェクト」という、水害予報に関する通信機器の整備と運用に…

水防活動のこと

堤防は、破堤決壊の恐れがない「スーパー堤防」以外は常に破堤の恐れがありますが、堤防の能力を最大限の発揮させるために「水防活動」があります。 昔は地域をあげて水防団(消防団)を維持していました。 下の写真は宮城県を流れる鳴瀬川に合流する吉田川…

劣化した堤防を見分ける

1、 地震で 堤天に亀裂が発生した四万十川堤防 堤防が劣化す ることは、あまり知られていません。その為もあってか、劣化を見据えた機能回復プログラムは現在設けられていません。 堤防の中を断ち割って、断面を確認する機会は少ないものですが、私は2度の…

破堤の現場

破堤寸前の現場 昭和29年(1954)9月の12号台風洪水で、四国、徳島、吉野川堤防の破堤をかろうじてま逃れた現場にいました。 私は当時中学生でした。 好奇心に駆られ堤防に到着した時、多くの水防団員は殺気立って、懸命に土俵を裏法の小段に積み上げる作業…

日本の堤防のほとんどは、構造体 としては作られていない

被災のたびごとに拡張してきた歴史的建造物 家屋や橋梁などの人工工作物のほとんどは、その構造体に対して安全を保障する設計基準があり、これに対応できる構造物が設置されています。 堤防も人工構造物なので、堤防がどの程度の外力(洪水の規模など)なら…

流域は巨大な水質浄化施設

地上に降った雨は水蒸気となり、また地表、地下を流れて海にいたることはだれでも知っていることです。 しかし流域を流れ下る過程で植物を育て、地下を流れると岩石を溶かし、また人間の活動に役立て、その結果汚染された水を分解するなどの様々な作用と流下…

「多自然川づくり」が死語になる日

「多自然川づくり」は、ネットを検索すると様々な事例や取組、考え方などを探すには苦労しない時代になりましたが 、私の記事はその創成期に見聞きした話を書いています。 いうまでもなく、河川工事は「建設産業」であり「理念」が理解できたとしても、コス…

未曾有、これまで経験しなかったという災害の正体

今年は、地震や水害、がけ崩れなどの自然災害が多い年になりました。しかし、これらの現象が起きる確率は、歴史の記録が近年少しづつ知られるようになったので、未曾有ということではなく周期的に起こりうるのだと知る人が多くなったような気がします。 私が…

堤防という構造物を知ろう(その1)

日本の河川の堤防のほとんどは、その河川に堆積した土砂で作られています。 稲作の始まりが、堤防の起源といっても間違いはなさそうです。 もう自然地形の一部となって、人々の関心は薄れていますが、いったん洪水で破堤すると、被害の大きさでその存在に気…

住民に情報を出すことが河川を管理する者の責務

住民自身が日ごろ 川 にかかわられなくなった結果? 現在では、今住んでいる場所は水害から堤防で守られていると、多くの人は安心して暮らしています。 その安心の根拠には、専門の役所、河川管理者が日常的に対応しているはず、というごく自然な信頼がある…

第十堰騒動

https://goo.gl/maps/T1ZUzmyqkMG2

複業のすすめー革新的仕事を進める方法

2018年1月15日の読売新聞トップに、「フリー労働独禁法で保護」という記事が出ていました。フリーランスな働き方をしている人へ不当な要求をする企業を独禁法で保護しようとするもので、この数日後には「強みを生かし複数の足」という見出しで、同時に複数の…

樋門,樋管の設計、管理(樋門が閉まらず浸水した理由)

洪水時や高潮が来た際には、施設の管理者は樋門、水門のゲートを閉めることで浸水を防ぐ仕組みが始動します。 いざの時に備えて、毎年出水期を控えた時期には、ゲート操作の練習、点検をするのが通例です。 しかし実際の操作を必要とする機会はなかなか訪れ…

河川の本卦帰り

水は、地表を流れる水も地下を流れる水も同じ性質があり、より流れ下りやすい方向を探し出して流れる性質があります。 この図は、四国の吉野川の下流の「流域治水地形分類図」です。 現在は堤防で一見洪水を閉じ込めていますが、昔の流路跡(青色縞模様)は…

「船舶 遠隔操作で運行」の新聞記事を読んで

2018年1月9日の読売新聞の記事見出しです。 これを読んで、全国にたくさん設置している、水門、樋門、ポンプ場の遠隔監視をすることを思いついたことを思い出しました。 河川に設置した機器の遠隔管理が可能になったのは、光ファイバー網の充実と、機器に複…

戦後の河川管理現場を支えた旧軍人や旧高専卒の先輩のこと

私が建設省の地方出先である四国地方建設局に採用された昭和33年(1958年)頃は、今でいう旧帝大卒と新制大学卒業の上級職は一握りで、課長職などの中堅技術者は旧高専卒業者が占めていました。 一般の技術者は、新制高校卒の公務員試験合格者がまだ係長一歩…

昔の川岸は、ほとんど護岸がなかったことを知っていますか

高度経済成長が始まった1960年(昭和35年)当時までは、川岸の法面は法面を覆う護岸は肝心な場所にしか設置されてなく、洗掘防止のために捨石、沈床などの根固工をほどこすのが精いっぱいでした。 フランスの会社が開発した「テトラポット」が日本に入ってき…

私がこのブログを書く理由

1939年生まれ,81歳の元河川土木技術者です。 思えば、高度経済成長期以前の昭和33年(1958年)に高校を卒業し、当時の建設省中国四国地方建設局に初級職として採用されて以来、72歳までの64年間の長きにわたり「河川土木」に携わってきました。 この間、上司…