昭和、平成時代の河川管理現場で体験したこと

見聞きしたこと、考えたこと、出来なかったことを伝えたい

洪水時に堤防はどこまで耐えられるか(江戸川旧堤防を利用した実験から)

 土を築き立てて作った堤防が、洪水時にどこまで頑張れるかは、誰もが知りたいと思うところです。

 堤防は現地実験で安全性が確認できない構造物なのです。過去の洪水では破堤しなかったという事実だけが確かなことで、飛行機や建物、ダムなどは実負荷実験を行って安全性を確認しているものの、一般の堤防ではどこまで耐えられるかの実物大実験は大掛かりになるので、行われていないのが実態です。

 

 そんな中で、私が知る限り、1例だけ現地実験したことがあります。 おぼろげですが1990年ごろで、関東地方整備局一般財団法人国土技術研究センターに委託した事例で、場所は埼玉県江戸川、新旧堤防が一時期並行して存在した施設を使って、この中に水を注入し、また雨を降らせて、土の堤防がどのように浸潤進行してゆくかの実物大実験を行った現地実験です。

 

 その結果は下図のようあったと記憶していますが、正確には国土技術研究センターにお問い合わせをされると教えてくれると思います。

 実験の結果は 計画高水位まで水を300時間ためたところでは破堤しなかったことが一つ、 しかし、この実験期間中に雨を降らせると(何ミリ降らせたかは記憶が薄れている)裏法尻から崩壊が始まったことが確認されています。

 同じ条件下で裏法尻にドレーン工(水抜き)を追加、敷設したケースでも計測しました。 その結果、ドレーンを設置することによって提体内の浸潤線が下がり、そのため裏法尻の崩壊は見られませんでした。

 私はこの実験結果を堤防の設置に関する技術指針を作る作業チームに入った時に知りました。

 この実験から得られた私の感想です。 

 実験堤防の土質は、シルト交じり砂(さらさらした川沿いの一般的な土質)でしたが、私はもっと早い時間に破堤すると思っていました。 また雨を同時に降らせると、浸潤線が上がり、提体内の浸透水の動向が破堤を左右するのだと感じました。

 この実験結果から、堤防の補強工法としては、ほとんどの堤防でドレーン工が有効であることが改めて確認できたと思いました。 

 砂地や透水性が高い地盤に堤防を設置するとき、裏空積工を設置することはよく見られる補強工法であるが、シルト交じり砂のような土質の堤防でも、ドレーン工が有効であると作業チームを指導された吉川秀夫先生も確認されました。

 なお、裏小段は降雨の受け口となって有害ではないかとという議論があり、小段は設けないほうがベターとの議論で終わった記憶があります。

 

この結果を理解して、シルト交じり砂で作られた多くの堤防の補強対策として、全国で普及することを願っています。

f:id:aihata:20200225162243j:plain