アメリカ出張で目から鱗、「知る権利」と「競争」の徹底
日本の洪水予測解析ソフト開発には2つの問題点があります。
一つは著作権で、国が発注するソフトについて、著作権を主張する仕組みがああるものの、その根拠法令には国有財産法しかなく(物の管理法)、ソフトなどの著作物を事実上管理する規定がなく、著作権を主張しても、管理規定がないことで、国がかかわったソフトの改良は硬直化していて、発展が阻害されている現状があります、一例をあげると、国が著作権を主張する仕組みの中で、他者がカスタマイズして、改良版を発売することについて、国が合意するための仕組みがないのです。。
もう一つの課題は、誰かが作ったソフトは、作り方がわからないので再現性がないということです。 つまり自分だけが満足するガラパゴス状態で進んでいることです。
各社、各研究者、各部門ごとで同じ目的のソフトが複数作られている実態があります。
この2つの課題を明らかにするため、中央大学山田教授を団長として、財団法人河川情報センターでは、アメリカ出張を企画し、私もその一員として参加し、日米の根本的な2つの相違があることを認識しました。
視察先はカリフォルニア州のデンバーにある アメリカ工兵隊事務所を訪ねました。ここが発表している洪水予測ソフトは、水害保険の加入、保険料率を算定するアメリカ唯一のソフトを運営しています。 そしてソースコードも公開しています。
国の経費で作ったソフトであるのに、なぜ著作権を設定しないのかという日本側の問いに対して、公費で作った著作物は、当然に国民が利用できるべきという答えが返ってきました。
しかしもう一つ理由があるように私には感じました。 ソフトに不具合が内在していた場合で、それにより損害を被れば、ソフトの著作権者の国が、莫大な賠償責任を負う恐れがあるので、これを回避しているのではないかと、これは私の推測です。
ここではアメリカで唯一の環境ソフトを作る仕組みを運営していました。誰でもソフト作りに参加できる、そのコードは公開されます、その中で最も優れたソフト(部品)が採用され、結果最優秀のソフトが出来上がる仕組みです。
アメリカで分かったことは、税金で作成たた データやソフト公開する ソフトの著作権は行使しない という思いもかけない答えが返ってきました。
データの公開は理解できましたが、ソフトの公開理由を尋ねましたが当たり前ということしか聞き取れませんでした。 ここからは私の推測です。 アメリカは訴訟の国です、そのソフトを公開し、権利を主張しない理由は、国は公開することで、使う利用者は自己責任でどうぞということかと、私は納得しました。
日本はソフトの発注者(国)や、請け負った企業が著作権を持つというのが 現状 です
国有財産法という法律はありますが、ソフトの権利も、この法律が適用されます。
国有財産法はソフトを管理することが想定されていません。 民間と共同で開発し
たソフトを改良しようとした場合、これを調整する部署がないため、前に進みません。今もこのソフトの国の管理システムは機能していないと思います。
日本がアメリカに追いつけない理由の一つです
香川県の土器川がなぜ礫河川なのか? NHKスペシャル列島誕生ジオジャパンで説明された
その河川がどのような性質を持つ川か、どんな成因を経た流域なのかを知ることは河川を管理するためには欠かせない基本的な知識といえるが、昭和の30年代にはまだよくわからなかった。
四国の地質図は、当時高知大学教授の甲藤次郎先生がまとめていて、たびたびご指導をいただいていたが、プレートテクニクス論はまだよくわかっていないと話されていた時代だ。
ところが最近NHKスペシャル「列島誕生 ジオジャパン」で日本列島の成因の研究成果を聞いて、永年の疑問が少しだけ溶けた思いだ。
四国で育った私には、なぜ太平洋側の山地が鋸切状にとがった形状をしているのか、高知の海岸の地層がでんぐりかえっていることや、四万十川が河口と上流河道の位置が近い不思議な形をしているのか、高知に良質の石灰岩が産出されるのか、吉野川と紀ノ川が形が似ているのかなど、多くの知りたいことを抱えて過ごしてきた
過様プレートテクニクス理論が、日本列島の形を作ったことはようやく、私たちにもわかるようになった来た。
土器川は直轄河川になったのは昭和40年の新河川法制定時で、最も遅い時期の直轄河川化であった。
当時は香川県管理河川であったので、私を含めてどの程度の事業規模なのかを急ぎ調査し直轄化に間に合わせたが、初めて見る土器川はどこが河道かがわからないぐらい礫が渦高く堆積し、その中を水が細々と流れている様は、阿讃山系を水源に持つ河川としては異様な河相をしていた。 流域は表流水は少なく、多くが伏流して流れ、ところどころに「出水」という伏流水の湧き水が出現していた。
こんな礫河川の発生源はどこかと、河川を遡上ってみたが、それらしい様相がなく、不思議のまま現在までに至っていた。
ジオジャパンでは、中央構造線が動き、その際大歩危、小歩危を形成している緑泥片岩層を流れる吉野川上流の流末は、もともとは土器川であった。 それが中央構造線の移動(ずれ)によって今の吉野川につけ変わった、その証拠は土器川で「青石ー緑泥片岩」が見つかったことを証拠の一つとしている。
永年の疑問が一つ溶けた。
水害が発生すると、川床を掘れという主張はもっともなれど
川底を掘れという意見は一見まともながら、その効果が持続しないこと、他の施設との関係などで容易には実現しにくい方策
洪水を無くすための方策の一つとして、「川底を掘削する」という方法が議論されています。 確かに川底を掘り下げることは、氾濫を防ぐためによく語られることです。
河床を掘り下げて、その土を掻き揚げて堤防を作ったのは、つい最近までは改修工事の基本でした。 しかし改修された川の両岸には人家や水田が開かれ、取水堰が設けられ、護岸も整備してきました。 沿川には伏流水を利用する工場なども建てられています。
多摩川の例で見れば、江戸時代に設けられた羽村堰をはじめとして上水道、農業用水取水のため、いくつもの堰が設けられています。 堰と堰との間は掘削して川から土砂を運び出せますが、堰地点は容易にはできません。 これらの堰高を固定点として、取水、伏流水の利用、橋梁の根入れ、護岸や樋門などの河川構造物が作られていて、これらを無視して川床を下げる工事はできないのです。
そもそも、河床の高さは、山から川に流出してきた土砂と、海へ流れ下る土砂との釣り合いで河床高が成り立っています。
洪水を氾濫なく流すためには、河床は低い方がよいのですが、河を利用する社会との仕組みのなかでは、制約が多いので、あまり大規模な採用できにくいのです。
計画以上の雨が降り続くと、やがてダムは洪水調節を行なえなくなる「限界」がある、それは
ダムには、洪水専用ダム、農業、上水道などに利用している利水専用ダム、洪水調節と利水、発電を複合目的にした3種類のダムがあります。
治水専用ダムで,貯水用のゲートを持たない、いわゆる専門用語で「穴あきダム」というダムがあります。川の流れを(ダムを設置して)人工的に狭くすることで狭くしただけ貯水池に洪水を貯留する仕組みです。
洪水調節をするということは、洪水波形のピーク時間を後ろへずらし(その分貯留する)洪水波形を平滑化させるように操作するのです
洪水時に堤防はどこまで耐えられるか(江戸川旧堤防を利用した実験から)
土を築き立てて作った堤防が、洪水時にどこまで頑張れるかは、誰もが知りたいと思うところです。
堤防は現地実験で安全性が確認できない構造物なのです。過去の洪水では破堤しなかったという事実だけが確かなことで、飛行機や建物、ダムなどは実負荷実験を行って安全性を確認しているものの、一般の堤防ではどこまで耐えられるかの実物大実験は大掛かりになるので、行われていないのが実態です。
そんな中で、私が知る限り、1例だけ現地実験したことがあります。 おぼろげですが1990年ごろで、関東地方整備局が一般財団法人国土技術研究センターに委託した事例で、場所は埼玉県江戸川、新旧堤防が一時期並行して存在した施設を使って、この中に水を注入し、また雨を降らせて、土の堤防がどのように浸潤進行してゆくかの実物大実験を行った現地実験です。
その結果は下図のようあったと記憶していますが、正確には国土技術研究センターにお問い合わせをされると教えてくれると思います。
実験の結果は 計画高水位まで水を300時間ためたところでは破堤しなかったことが一つ、 しかし、この実験期間中に雨を降らせると(何ミリ降らせたかは記憶が薄れている)裏法尻から崩壊が始まったことが確認されています。
同じ条件下で裏法尻にドレーン工(水抜き)を追加、敷設したケースでも計測しました。 その結果、ドレーンを設置することによって提体内の浸潤線が下がり、そのため裏法尻の崩壊は見られませんでした。
私はこの実験結果を堤防の設置に関する技術指針を作る作業チームに入った時に知りました。
この実験から得られた私の感想です。
実験堤防の土質は、シルト交じり砂(さらさらした川沿いの一般的な土質)でしたが、私はもっと早い時間に破堤すると思っていました。 また雨を同時に降らせると、浸潤線が上がり、提体内の浸透水の動向が破堤を左右するのだと感じました。
この実験結果から、堤防の補強工法としては、ほとんどの堤防でドレーン工が有効であることが改めて確認できたと思いました。
砂地や透水性が高い地盤に堤防を設置するとき、裏空積工を設置することはよく見られる補強工法であるが、シルト交じり砂のような土質の堤防でも、ドレーン工が有効であると作業チームを指導された吉川秀夫先生も確認されました。
なお、裏小段は降雨の受け口となって有害ではないかとという議論があり、小段は設けないほうがベターとの議論で終わった記憶があります。
この結果を理解して、シルト交じり砂で作られた多くの堤防の補強対策として、全国で普及することを願っています。
水防災対策を今後、どのように進めるかはなかなか難しそうだ
水の利用であれ水防災対策であれ、昔も今も政治、経済が治水の方向性を左右している。治水の技術はこれにかなうように対応してきた歴史があり、今後も変わることはない。
既往最大の洪水が頻発し、一層巨大化が見込まれ、少子高齢化社会が到来しているこの時点で、今後の治水対策の設計図を私なりに考えてみた。
不遜な企てと承知している、十分な知識があるわけでも、聡明な学力、思考力があるわけでもない、いわばどこにでもいる普通の河川の現場を経験した者の一人としての視点で考えたことを述べてみたい。
現役の行政担当者であれば、時の政府や自治体の考えを体現する方向で設定するのはごく当たり前であるが、ここでは、すべての制約を考えず、考えてみたい。
問題の設定からスタートする。被害が軽減すればよいことはわかっている、これまで堤防、ダム、その他の治水方策を実行してきたが、今後どのような方策が残されているのだろうか。
1、堤防を強くすればよい
これはだれもが思うことであるが、その実効性にはどのような課題があるのかを書き連ねてみたい。